パパにせんぶあげる。
「噂をすれば、早速カレからお電話ですよーっ、花音ちゃんっ!」
「どうぞごゆっくりー!」
わたしは二人にはやし立てられながら一旦カフェの外に出ると、冬樹くんからの電話に答えた。
「もしもし。冬樹くん、どうしたの?」
『花音ちゃんが前に行きたがってた遊園地のチケットが2枚取れたんだ。よかったら今週末、一緒にどうかな?』
「ええっ、それって『リトル・フランス村』のこと?!やったー!行く行くっ!」
ずっと行きたかった人気の遊園地への誘いに、わたしは喜びのあまりその場でピョンピョンと飛び跳ねた。そして、ふと我に返り、さっきまでの舞ちゃんと萌ちゃんとの会話を思い出した。
これってもしかして、デートへのお誘いだっりして…。
『ま…まさかね? 』
「…? 花音ちゃん、どうしたの?」
『なっ、なんでもないっ!じゃあ今週末、予定空けておくね』
「よろしく。10時頃に迎えにいくよ。じゃあ、また明日ね」
*
舞ちゃんと萌ちゃんと別れると、辺りは既に暗くなり始めていた。駅前のにぎやかな商店街と大きな緑地公園を抜け、静かな住宅街の続く先にわたしの家が建っている。
フランスでの生活を忘れないようにと、パパはこの土地に西洋造りの家を建てた。広くて綺麗な家だけど、生活感がなく、少し寂しい雰囲気もする。
「ただいま」
玄関にぽつりと自分の声が響く。亜美ちゃんと亜夢ちゃんは、習い事に出掛けていた。ママも二人の送迎で家にいない。
リビングに入る。隣のダイニングキッチンも、ひっそりと静まり返っていた。
大きな冷蔵庫を開くと、中身はほとんど空っぽだった。わたしはミネラルウォーターのボトルを取り出して、コップに注ぐ。
地下のレッスン室からは、パパの弾くピアノの音が響いていた。ラヴェルの『水の戯れ』だ。パパと同じフランス人作曲家の作品は、パパの演奏会レパートリーの中で最も人気がある。繊細なタッチと透明感のある音は、パパにしか出せない。このキラキラと澄んだ音がわたしは昔から大好きだった。
曲が終わると、レッスン室の扉が開く音がして、足音が少しずつ近づいてくる。
「おかえり」
背後から声を掛けられる。パパの声は明るく、機嫌が良さそうだった。
「ただいま、パパ。カフェで友達とお喋りしてたら、少し遅くなっちゃった」
「いいじゃないか、たまには息抜きもしないとね」
パパは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、中身の少なくなったボトルに直接口をつけた。
「駅前の新しいカフェでね、ケーキ食べたの。すごいのよ、上にイチゴが3つも乗ってるの」
「へえ、それは美味しそうだ。パパの分はあるのかい?」
「1ピース1500円もするのよ? パパの分まで買ってたら破産しちゃうわ」
「はは、残念。じゃあ今度一緒に食べに行こうか」
パパは中身を全て飲み干すと、少し離れたゴミ箱に空のボトルを放り投げた。パパの動きは一つ一つしなやかで、何もするにも不思議な品がある。
「どうぞごゆっくりー!」
わたしは二人にはやし立てられながら一旦カフェの外に出ると、冬樹くんからの電話に答えた。
「もしもし。冬樹くん、どうしたの?」
『花音ちゃんが前に行きたがってた遊園地のチケットが2枚取れたんだ。よかったら今週末、一緒にどうかな?』
「ええっ、それって『リトル・フランス村』のこと?!やったー!行く行くっ!」
ずっと行きたかった人気の遊園地への誘いに、わたしは喜びのあまりその場でピョンピョンと飛び跳ねた。そして、ふと我に返り、さっきまでの舞ちゃんと萌ちゃんとの会話を思い出した。
これってもしかして、デートへのお誘いだっりして…。
『ま…まさかね? 』
「…? 花音ちゃん、どうしたの?」
『なっ、なんでもないっ!じゃあ今週末、予定空けておくね』
「よろしく。10時頃に迎えにいくよ。じゃあ、また明日ね」
*
舞ちゃんと萌ちゃんと別れると、辺りは既に暗くなり始めていた。駅前のにぎやかな商店街と大きな緑地公園を抜け、静かな住宅街の続く先にわたしの家が建っている。
フランスでの生活を忘れないようにと、パパはこの土地に西洋造りの家を建てた。広くて綺麗な家だけど、生活感がなく、少し寂しい雰囲気もする。
「ただいま」
玄関にぽつりと自分の声が響く。亜美ちゃんと亜夢ちゃんは、習い事に出掛けていた。ママも二人の送迎で家にいない。
リビングに入る。隣のダイニングキッチンも、ひっそりと静まり返っていた。
大きな冷蔵庫を開くと、中身はほとんど空っぽだった。わたしはミネラルウォーターのボトルを取り出して、コップに注ぐ。
地下のレッスン室からは、パパの弾くピアノの音が響いていた。ラヴェルの『水の戯れ』だ。パパと同じフランス人作曲家の作品は、パパの演奏会レパートリーの中で最も人気がある。繊細なタッチと透明感のある音は、パパにしか出せない。このキラキラと澄んだ音がわたしは昔から大好きだった。
曲が終わると、レッスン室の扉が開く音がして、足音が少しずつ近づいてくる。
「おかえり」
背後から声を掛けられる。パパの声は明るく、機嫌が良さそうだった。
「ただいま、パパ。カフェで友達とお喋りしてたら、少し遅くなっちゃった」
「いいじゃないか、たまには息抜きもしないとね」
パパは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、中身の少なくなったボトルに直接口をつけた。
「駅前の新しいカフェでね、ケーキ食べたの。すごいのよ、上にイチゴが3つも乗ってるの」
「へえ、それは美味しそうだ。パパの分はあるのかい?」
「1ピース1500円もするのよ? パパの分まで買ってたら破産しちゃうわ」
「はは、残念。じゃあ今度一緒に食べに行こうか」
パパは中身を全て飲み干すと、少し離れたゴミ箱に空のボトルを放り投げた。パパの動きは一つ一つしなやかで、何もするにも不思議な品がある。