【完】白坂くんの溺愛は危ないことだらけ
「小夏………っ、」
涼太が目を見開いて何か叫ぼうとしたけれど、男の手がその口を塞いだ。
「黙れ黙れ!!」
「ん───っ!」
「ぶはっ! コイツ死にそうなんだけど」
命が尽きる蝉みたいにジタバタする涼太を、男は楽しくて仕方ないとでも言うように笑い声を響かせる。
涼太を離して、と私が駆け出そうとしたその時だった。
「──気の強い女、俺好きだよ?」
それを阻止するように、私の身体を背後から抱き締める二本の腕。
その感触に、ざらりと肌が震えた。
「浴衣っていいね。よく似合ってるよ」
「……い、やっ、」
耳の上に唇を押し当てて、男が低く囁く。
気持ち悪くて、怖くて、呼吸がさらに乱れた。
力の抜け落ちた身体はだんだん冷たくなって、感覚さえ失っていく。
ドンッ!と、鈍い音がしたと同時、涼太を取り押さえていた青いメッシュの男が地面をのたうち回っていた。
「コイツ……!! 俺のみぞおちに蹴り入れやがった……クソがっ……」
口から泡のような唾液がもれていた。
「小夏を………返してくれ……っ。その子、具合が良くないんです……」
ガタガタと全身を震わせた涼太が、今にも泣きそうな顔でこちらへと足を動かした。