【完】白坂くんの溺愛は危ないことだらけ
「ガキが暴れるな!!」
男が罵声を浴びせている。
何がそんなに面白いのか、私の自由を奪った男の引き笑いが聞こえる。
視界がぼやけて、そこからのことは、あまり覚えていない。
「最低だ………」
私が零した言葉はそれが最後だった。
「んー? なぁに?」
ぐしゃりと後ろから前髪を掴み上げられた。
髪が抜けるんじゃないかってくらい痛みが走ったけど、もう声すら出ない。
闇に浮かぶ男の顔が逆さまのように映る。
にんまりと笑った三日月のような目。
小さな泣きボクロが、滲んで見えた。
「───ヒマワリ柄か。可愛いね」
誰かに言ってほしかったその言葉は、最低なものになった。
絶望とともに眠るのだろうという恐怖に抗おうとしたけれど、弱る身体は限界を迎え、私はそこで意識を手放しかけた。
騒音と罵声と、拳がぶつかるような、誰かが倒されるような鈍い音が近くで聞こえる。
微かに、鉄のような血の匂いがした。
許しを乞う涼太の悲痛な叫び声は、もう聞こえなかった。