【完】白坂くんの溺愛は危ないことだらけ
どうして、私の名前を……?
「ねえ。あの勇敢な少年は、どこにいるの?」
聞き覚えのあるその声が、言葉が、私を誘うように呼んでいる。
──勇敢な少年。
痛めつけられた涼太の顔が脳裏に蘇る。
「……あぁ」
まさかと思い、振り返った私は短く声をあげた。
「やっと会えたね、愛しいお姫様」
蜃気楼の陽炎みたいに映る、にんまりと微笑んだ剣崎の三日月のような目が、私をしっかりと捕えている。
目の下の泣きぼくろが、滲んで見えた。
嘘だ……。
そう思っても、一年前の夏祭りの夜、私を捕まえた男と剣崎が重なった。
「知ってた? 俺ね、一度見た人間の顔は忘れないんだよ?」
頭が真っ白になり、全身の血が抜けていく。
白坂くんを追っていた剣崎は、一年前に私と涼太を襲ったあの男だったから。
警報が聞こえる。
この男からは逃げられないよ、と。