【完】白坂くんの溺愛は危ないことだらけ
剣崎は「よく思い出してごらんよ」と、言い聞かせるような口ぶりで言った。
恐怖に支配されたこの状況でも、私の頭はやけに冷静で、そっと記憶の蓋を開けた。
蘇る、一年前の夜。
剣崎に捕えられた私。
背中が粟立つほどに叫ぶ涼太。
許しを乞う千切れそうな声。
頬骨がぶつかる嫌な音。
朦朧とする意識の中で、やがて涼太の声は聞こえなくなった。
……涼太の許しを乞う声が。
「………涼太は、私を助けてくれた」
私はずっとそれを繰り返した。
涼太が逃げるなんてことはありえないのだと、ふたりに異を唱えるように。
それなのにどうしてか、私は涼太の目を見れなかった。
「俺じゃない……ごめん……小夏を助けたのは……俺なんかじゃない」
耳を塞いでしまいたかった。
──じゃあ、誰が……?
どうして剣崎は涼太を痛めつけてるの?
なんで、白坂くんを追いかけてるの?