壊せない距離
「…私の頭はテーブルじゃないんだけど。」

乗せられていたのは蒼が飲んでいるビールジョッキだった。20歳なりたての頃はビールなんか飲めなくて、アルコール度数低いものを数杯飲んだだけで潰れていたのに。

「ごめんごめん。で、合コンって何?」
「蒼には関係ない。何でこっちに来たのよ。」
「葵が俺に隠れて合コンに行ったって聞こえたから。」
「別に私が合コンに行こうと、蒼には迷惑かけてないんだから良いでしょ。」
「言っただろ。葵が付き合うやつは俺が認めた相手だって。」

あのBarでの話は冗談だと過ごしていたのに、ここで持ち出してくるなんて何を考えているの。
返答するのも面倒になってきて、残りも少しになったピーチフィズを飲み干し次のドリンクは何にしようかとタブレットを美波に取ってもらった。

「ねえ、大橋。」
「何、勝手に葵を合コンに連れて行った七瀬さん。」

次は私もビールにしようかな、と思い、タブレットの注文画面に入力していると凛が蒼に話しかけていた。

蒼の声色はいつもと変わらないけれど、少し不機嫌そうにとげとげしさを感じているのは、私がそう思いたいからなのだろうか。

「大橋って、そうやっていつも葵の邪魔をしてるのは、何で?好きだから?」

突然の凛の言葉に、思わずタブレットを膝の上に落とした。

「…っ。ちょっと、凛。」

蒼の口からこれ以上、辛い思いをする言葉を聞きたくないのに。凛は止まらず続ける。

「好きじゃなきゃ、邪魔しないよね。」

私を挟んで蒼を見つめる、いや、睨んでいる。



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