壊せない距離
「今帰り?営業さんは大変だね。」

もう9時を回っているのにまだスーツ姿で通勤カバンを手に持っているあたりから、帰宅したばかりなんだろう。
タイミング悪く鉢合わせするなんて。

「あぁ、今日は金曜日だったから、仕事溜まってて」
「お疲れ様。早くご飯食べて寝た方が良いよ。」

エレベーターに乗り、私より先に降りるはずの蒼が自分の階である3階のボタンを押さなかったから、私の部屋の7階まで到着した。

「何してるの。」
「さっきの男って、合コンの人?」
「…見てたんだ。」
「ちょうど同じ電車に乗ってたからな。で、誰。」

私の部屋の前までついてくる。蒼の声は大分不機嫌さが混ざっているけれど、どうしてそこまで私に当たられるのかが分からない。

「そうよ。告白された。付き合うかどうかは考え中。」

もういいでしょ、と玄関の鍵を開けて蒼に帰るよう伝えようとしたのに。

蒼の手がドアを思い切り開けて、私を中に押しこんだ。そして当たり前のように蒼も部屋に入ってくる。

ドアの閉まる重い音が、暗闇の中に響いた。



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