壊せない距離
「なに、するの。」

私の言葉に返事もなく、沈黙が続いた。ほんの数秒だっただろうけど、私にはそれが数分に感じられる。

はぁ、と息をこぼした蒼は狭い玄関で壁に私の腕を押し付けた。

「そ、う…?」


「どうして葵は、俺の言うことを分かってくれないんだろうな。」
「なにが…」

「俺は、葵に傷ついてほしくないだけなのに。葵はいつも、俺の手をすり抜ける。」

蒼が何を言っているのか分からない。いつも傷ついているのは蒼の言葉にだってことを、蒼は知らないからそんなことが言えるのよ。

蒼を好きなだけで、私は15年間、ずっと傷ついてきた。傷つけている本人が、何を言ってるの。
耐えきれない想いが、私の口から零れ落ちる。



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