壊せない距離
「この書類、一応11月中旬までのはずだったんだけど。」

いつもの立替経費とは重要さが違う書類。それなのに、こうも遅れてこられるとそろそろ怒りをぶつけても許されると思う。

「本当に申し訳ないって思ってるんだけどさ、一応俺の言い訳も聞いてくれる?」
「聞きたくない。」
「そんなこと言うなよ。ほら、俺先月からこの前まで長期で海外出張行ってただろ。そしたら提出が遅れたんだよ。あ、あとこの領収書もお願い。」

謝っている途中にさらりと別の用事も頼んでくるあたり、やっぱり鈴原は反省なんてしていないんじゃないか。

「…そういう人もいるから、10月下旬には書類を渡しておいたはずなんだけど。あと、領収書は期日間に合ってるからいつも通りBOXに入れてくれば大丈夫なの。」
「あれ、そうだっけ。いつも水瀬に手渡ししてるから忘れてた。」

へらっと笑う様子から、やっぱり反省していないと確信する。

「とりあえず、今回だけは本当に受け取るけど。次から遅れたら問答無用で切り捨てるから。」

鈴原に手を向け、早く書類を提出して、とにらみつける。

「さすが水瀬、頼りになる。」
「あのね、本当に今回だけだから。立替くらいはまだ許せるけど、年末調整は本当に大事な書類なの。私に甘えてるといつか大変なことになるから、気をつけなさいよ。」

この部署に鈴原が親しく話せる人は同期の私しかいない。

私がいなくなったとき、この鈴原のルーズさを誰が受け止めてくれるっていうんだろう。

「だから、水瀬様、どうかいつまでもよろしくな。」
「はいはい。じゃあ、私今から休憩だから。」

鞄から財布とスマホを取り出し、社食へ向かう。

「ごめん、もしかして俺が呼び止めてた?じゃあ一緒に食おうよ。」
「良いけど、凛もいるわよ。」
「俺が入っていいなら、全然問題なし。」



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