壊せない距離
「飯田さん、何か手伝える仕事はありますか。」

今日中までにと私に任されたデータ処理は終えていたけれど、来年度の予算編成のグループに割り振られた飯田さんはまだパソコンに向かっていた。

「あぁ、水瀬。まだ各部署の予算が上がってきたばかりでさ。まだ去年の予算と実績を見合わせて報告書を作る段階だから、頼めることはないんだよ。ありがたいけど、もうすぐ定時だし上がっていいよ。」

そうですか、と明日に取得した有休のためにデスクを軽く整理した。
デスクの上に並べていたファイルを分かりやすく日付順ごとに並べ直す。たぶん大丈夫だと思うけれど、もし明日私が担当しているデータを同僚が必要になったときにすぐ探せるようにするため。

「じゃあ、忙しい中申し訳ないですけど、明日は休ませていただきますね。」
「おうおう、水瀬は全然有休取ってなかったみたいだし、3連休楽しんで来いよ。」

パソコンから目を離して嫌味そうな顔をこちらに向けている。嫌な予感がする。

「…勘違いされてる気がするんですが。」
「あれ、デートじゃないの。」

やっぱり、と予想通りの返事にため息をこぼした。

「違います。実家に帰って用があるんです。」
「なんだ、彼氏と旅行でも行くのかと思ったよ。」
「残念ながら、そんな相手もいないので。」

では、と先輩に声をかけたあと上司にも明日の有休について伝えて帰宅した。




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