壊せない距離
ふう、と息を吐き、緊張する気持ちを落ち着ける。

有休を取得した今日、一人で大阪に足を運んでいた。

見上げるのは小売業界でも全国トップクラスの業績を誇る百貨店を経営する会社、ヘネアールの本社が入っている建物。

32階まであるビルのうち、ヘネアールが占めるのはそのうちの10階分。
残りの22階は他社に貸しているけれど、所有しているのはヘネアールらしい。
そのヘネアールを支えているのが満坂百貨店。西日本ではトップ、全国でも百貨店の中では東京の光井に次ぐ2位を維持している。特にデパ地下はその光井を抜いてトップ。

従業員の対応にも定評があり、大阪の人は百貨店といえば満坂、というほどに信頼しているらしい。

中層階用エレベーターに乗り指定された16階に到着した。指定時間の10分少し前で、心のなかで大丈夫、と安堵する。

エレベーターを降りたすぐのところにドアがあり、受付担当らしき人に声をかける。

「おはようございます。本日面接をしていただく予定の水瀬葵と申します。」
「おはようございます、お待ちしていました。こちらの書類をお読みになって、どうぞ中でお待ちください。」
「ありがとうございます。」

受付の方に言われた通り中へ進むといくつかの椅子が用意されている。渡された書類に書かれた番号通り、5番の席に着席した。

書類にはヘネアールに関する内容、満坂百貨店の営業理念などが書かれている。

それらを読んでいると、開始時間の5分前だが全員そろったとのことで予定より面接が早く始められた。

面接官は2人で、1番から順番に呼ばれていく。別室に一人ずつ呼ばれ、およそ10分程の面接。

「では次、5番の方、どうぞ。」
「はい。」

呼ばれた私は黒バッグとコートを手に取り別室へ向かった。



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