壊せない距離
「それで、大阪に?」
「えっ…なんで…」

「それ」と人差し指で私が手に持っていた紙袋を指す。

「大阪、満坂百貨店のだよね。前に葵が食べたいって言ってたお菓子を買ってきたんだ。」

的確に言い当てられ、隠せそうにないと思い本当の目的だけは告げずに返答した。

「…うん。蒼にも内緒で行っちゃったからお土産は買ってないの、ごめんね。っていうことだから、久しぶりの新幹線で疲れちゃったし、部屋戻るね。お疲れ様。」

手に持っていたキャリーケースを一度置いてバッグから鍵を取り出そうとしたら蒼が先に開けていてドアが開いた。さらにはキャリーケースも引かれていく。

「部屋まで持つよ。」

エレベーターは一緒になってしまうことも想定内だったけれど、部屋までついてくるとは思っていなかった。

あの日以来、蒼も気まずいと思っていたから避けてたんじゃなかったの…
部屋の前まで来ると、蒼がキャリーケースを手渡してくれる。

「仕事で疲れてたのに、ありがとう。それじゃ。」

今度こそバッグから鍵を取り出す。

「葵。」

その言葉を聞いた瞬間、嫌だ、と思った。聞きたくない、答えたくないことを言われる気がする。



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