壊せない距離
寝返りを打って蒼の方を向くと、うぅん、と蒼が唸った。

「ここ、どこ。」

ゆっくり起き上がり、蒼を見下ろすと、うっすらと目を開けてもまだぼんやりしている蒼と目が合う。

「あお、い。」
「蒼が潰れちゃったから、近くのホテルに連れてきたの。感謝してよ。大変だったんだから。もう終電もなくなったから、朝までここにいたら―――」

良いよ、と言おうとした言葉は発せず、視界が反転した私はいつの間にか蒼を見上げていた。

「そ、う…?」

分かったのは蒼に手を引かれて、ベッドに押し倒されたこと。
けれど、どうしてそんなことをしたのかは分からない。

「どうしたの、はやく寝よう…?」

蒼、と言いかけた言葉は口の中に消えていった。
目の前には蒼の顔、睫毛の長い目は閉じていて、綺麗だなあと感心してしまう自分がいる。

けれど今置かれている状況にはっとする。
唇に触れているのは温かく柔らかい、蒼の唇。
キス、されてる…?

どれくらいそうしていたか分からない。ゆっくり離れていった蒼の顔は、暗闇にも慣れた目で見える程、優しい笑顔だった。



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