壊せない距離
「凛、お待たせ。」

スマホから顔を上げた凛は、怒っている様子を隠すこともなかった。
私が座ったと同時に凛はスマホを横に置いた。

「ぜんぜん、急に呼び出してごめん。」

けど、と凛は怒りを含ませた言葉を続けた。

「なんで私が呼んだか、分かってるよね。」
「…退職のことでしょ。」
「当たり前。その理由、ちゃんと教えて。」

急かすように話す凛を遮るように個室のドアがノックされた。
そろったことで二人分の水を持ってきた店員さんに、いつも通りのメニューを注文する。

「で、どうして。」

ここまで怒っている凛を見るのは、多分、大学から今までで初めてだ。

今まで友達と喧嘩したときや、彼氏と別れたとき、そのたびに怒っているのは見たことあるけれど。それの比じゃないほど、今日の凛は怒っている。

「…凛には、ちゃんと話すよ。」

ふぅ、と息を吐いて、凛の瞳を見る。



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