壊せない距離
「凛達と離れるのはすごく寂しいけど、こうでもしないと諦められそうになくて。ごめんね、勝手に決めちゃって。」
「相談、してくれたらよかったのに。」

凛の声が震えていることに気づいたけれど、気づかないふりをした。

「話したら、行くのをやめたくなりそうだったから。親友に止められたら揺らいじゃうでしょ。」

でも、とこぼした凛の声に涙が含まれていた。

「凛、本当にごめん。嫌われても仕方ないことをしてるのは分かってる。親友って言いながら何も話さなかったことも、悪いことをしたって思う。」

だけどね、と続ける。

「もう、叶わない想いに、疲れたの。」

凛はただ静かに涙を流すだけで、私も何も言わなかった。


いつもは美味しく食べていたはずの料理も、とっくに冷めているだろう。

どちらも沈黙を壊さずに、数分が経過していた。

凛の涙も大分止まって、彼女は顔を上げた。

「葵が決めたなら、私も受け入れるしかない、よね。」
「…ごめん。」

下を向いて謝るしかできない私に、凛が大きな声で、でも、と言う。
その声に驚いて顔を上げた。

「これだけは譲らないから。葵の親友は、一生、私だから!」
「り、ん。」
「葵がどこに行ったって、葵の気持ちを理解してる友達は私だけだから。それは忘れないで。」

一人で大阪へ行くことを決めてから、寂しい思いに気づかないようにしていたけれど。

知らない土地で一人で過ごしていくことに、不安はあった。

その思いに気づいた今、心のどこかで抑えていた涙が零れ落ちる。

「凛、ありがとう。」
「当たり前でしょう。何年親友やってると思ってるのよ。もう7年よ、幼馴染の20年には負けるかもしれないけど、友達のなかではぶっちぎりで一番なんだから。」
「…っ、うん。凛の親友も、一生、私ね。」

25歳にもなって親友を語るのは恥ずかしく思うけれど、今日はそんなことを気にしないでいられた。



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