壊せない距離
16時半過ぎ、空っぽになった自分の部屋に戻ってきた。

最後、ここのカギを封筒で管理会社に送ってしまえば、終わり。

あとは、小さなボストンバッグとショルダーバッグを持って出ていくだけ。

窓から見える景色は面白味もないけれど、こうして見てみると感慨深く感じるのは何故だろう。

その時、部屋のインターホンが鳴る音がした。
嘘、まだ17時まで時間はあるのに。それに蒼の部屋で待っててって言ったのに。
思った以上にその時が早く来てしまったことに焦りつつも、窓を閉めてドアに向かう。

鍵を開けドアを開く。

「…早かったね。休日出勤じゃなかったの?」

やってきた相手に声をかけるのに、一向に返事がない。

靴を脱いで、下の階に響きそうなほどドンドンと進んでくる彼は、きっと、いや、確実に怒っている。
このことを決めてから、私、みんなに怒られてばっかりだな。仕方ないけれど。

「営業部は毎日忙しいって聞いてたから、てっきりまだ会社だと思ってた。」

後ろを歩く蒼にゆっくり振り向いた。

「ねえ、そ…」
途端、ドン、と壁が響く音がして、反射的に身体がびくっと跳ねる。

横目で見るとそれが蒼の手のせいだと分かった。

恐る恐る顔を上げる。私を見下ろしながら、蒼は口を開いた。

「昨日で退職したって、どういうこと。」



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