壊せない距離
大学も彼女の選んだ大学に合わせた。彼女を理由にして将来を決めるのもバカみたいだと思ったが、俺は経営を学べたらそれで良かった。

そしたら偶然、彼女は経済を学ぶために、経済経営が有名な大学を志望していて、何も疑われることなく同じ大学に進学した。

それまでは離れることなく彼女とずっとそばにいられた。

だが、就職は、本当に賭けだった。

このままずっと彼女のそばにいたいと思っていたが、それだけで決められるほど簡単なことじゃない。

彼女と同じ会社で、かつ自分も興味のある会社でなければいけなかったが。

彼女はお菓子が好きだから、と製菓会社を選んでいて、俺も小売業には興味があったから、ちょうど良くムトウ製菓に決めた。

就職してからも、俺は彼女とは幼馴染だから、と言い訳をしてそばにいた。

わざと期日が過ぎた領収書を持って、それを口実に食事に誘った。

彼女を守るという言い訳で、恋愛関係にまで口を出した。

彼女が俺以外の隣で笑っていることを想像するだけで、嫉妬してしまう。

もちろんそれらが幼馴染としての範疇を超えていることも理解していた。



だからあの日、本当は、俺の気持ちを伝えるはずだった。

『蒼は、私のことをどう思ってるの。』
『私のこと、好きだから、そんなこと言うの…?』

そう聞かれたとき、言えば良かったんだ。たった一言、好きだ、と。

だが、そう言えなかったのは、長すぎた幼馴染という関係。

それを壊したくなかったはずなのに、今ではそれを壊すことが怖くなっていた。

あと十センチ、いや、たった一センチでも、この距離を壊すことができていたら。

…いや、違う。

あの時、彼女は言った。『その関係を壊したのは、お互いだから。』と。


幼馴染という関係を壊していたのは、俺だったのか―――



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