壊せない距離
「あのさあ、蒼。仕事熱心なのは良いことだけど、そんなに根詰めて働くことないと思うぞ。今はまだ11月。次出店が決まったのは福岡だし、関東は売り上げも好調だろ。毎日毎日残業して、そろそろ上司に怒られるぞ。」

デスクに座って関東のデパ地下に出店している店の売り上げをチェックしていると、隣から説教が聞こえてくる。

鈴原俊。同期の中で一番仲が良い分、やっかいな相手だ。

海外営業部に所属して、毎月どこかしらの国に出張に行っている。勤務時間はこの会社の誰よりも長い海外営業部だ。
そんな俊からも残業についてうるさく言われる程、自分が仕事ばかりしていることは分かっている。

だが、帰って特にすることもなければ、出かけたいところもない。
仕事をしている方が楽だ。

「一応労基に触れない程度で残業はつけてるから大丈夫だ。」
「お前なあ、サービス残業も十分労基に触れるっての。」
「これは仕事じゃないから、問題ないだろ。」

はぁ、とため息をこぼしながら、俊は隣の空いているにデスクに腰かけた。

「お前、2年前からずっとそんなだぞ。そりゃあ会社にとっては利益になってるから喜ばれてるかもしれないけど、友達の俺からしたらよっぽど心配なわけ。分かる?俺のこの気持ち。」
「ご心配どうも。だけどこの通り、どれだけ働いても身体は壊してないから、平気だろ。」

「そういう問題じゃないんだって」と、頭を抱えている俊には悪いが、来月の売り上げも伸ばしてもらえるように考えなければいけない。



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