壊せない距離
入社して6年目。デパ地下に出店が決まってからは2年半以上だが、ちょうどその頃から仕事ばかりしていたおかげで、成績も上がっていき今年の春からSVも任されるようになった。

俊の言う通り、関西には大阪の満坂以外に5つの百貨店に出店しているが、満坂以外はなかなか数字が取れない。

そんな時に福岡の出店を決めた営業部の方針が分からないが、何とか予算を超えられているならまだ見込めると考えているんだろう。

その分だけSVや店長、販売員が苦戦してることは知らないんだろうけど。

SVを担当してから、現場の状況と本社が考えていることは全く一致しないことが分かった。
本社は去年の売り上げから予算を提示して、それを超えられるようにSVと店長に案を考えるよう押し付ける。

だが実際には、百貨店なんて人の流れが激しい場所だ。雨の日は必然的に売り上げは下がるし、人気の菓子店がオープンすれば客はそちらに流れてしまう。

災害のために緊急で閉店時間を早めたり、時には営業を休止したり。

それでも、去年の実績を超えなければ予算は達成することができないから、と無理難題にそれらの挽回を命じてくる。

販売員が早期退職してしまうのは、それらによるストレスが一つの原因だと思う。

できるだけ俺はそうならないように、一緒に考えて、売り上げが悪くても原因を考えてそれをつぶしていけるようにしているつもりだが。

「そういえば」

さっきまでの軽いノリとは違った低いトーン。何となく、言いたいことは予想できた。だから今日、こうして俺を連れ出したってことも。



「水瀬と、連絡は取れたか。」

俺が2年半以上探している、彼女のことだった。




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