壊せない距離
「俊は、良いやつなんだよな。」

思わずこぼれた本音に、俊が驚く。ちょっと照れているのも見て取れる。

「急に何だよ。」
「いや、急にそう思っただけだ。
 …本当はさ、葵がどこにいるのか、何となく予想はついてるんだよ。」
「え!?まじかよ。」

あの日、突然彼女が大阪に行った日。満坂の紙袋を持っていた。

多分あの日が面接だったんだろう。

その帰りに、満坂で買い物をしていた。だから多分…

「大阪駅のどこかの会社だと思う。そこで今も変わらず、経理で働いてる。」
「何で分かるんだよ。」
「1月末頃に突然有休取って大阪に行って、その時に満坂に寄ってたんだよ。葵は一人旅行で大きく動き回るタイプじゃないから、多分ホテルも大阪駅周辺。そのあたりで面接するってことは、多分、大阪駅に会社を構えてる。」

「経理だっていう理由は?」
「葵は、新しいことを始めるのが苦手だから。大学の時も一つのところでずっとバイトしてた。転職するにしても、慣れない業務を選ぶ可能性は低いし、経理なら葵は資格を持ってるし経験もある。転職するには有利だろ。」

そこまで言って、テーブルに突っ伏した。

俺が予想できているのはここまでで、あとは全く見当がつかない。



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