壊せない距離
蒼と帰りに寄った店は、私達がいつも行くBarだった。
お互い食事量は多くなく、どちらかというとお酒を好むようになったから。
大学を卒業したての頃は苦いお酒をそこまで好きではなかったのに。これを、大人になった、と言うんだろうか。
「ったく、俺が葵を誘うために定時ギリギリで経理に顔出したことくらい、葵は分かってただろ。」
「ぜんぜん。女の子とデートのために急いで仕事を終わらせて、ギリギリで駆け込んできたのかと思ってたわよ。」
「あのな、俺が今彼女いないことくらい知ってるだろ。新手の嫌がらせか。」
「そうね、蒼のおかげで女の子たちからあることないこと噂立てられるのには、そろそろ疲れてきたから、ちょっと仕返しでもしてあげようかなとは思ってたけど。」
「やっぱり、わざとだったんだろ。…まあいいや、とりあえず、領収書ありがとな。」
「いいえ、今日はごちそうしてくれるみたいだから、それで許してあげる。」
「葵はザルだから、ほどほどにしてくれよ。」
蒼の前では可愛くないことだって知っている。可愛くいられたのなんて、もう何年も前の話だ。
おそらく、彼が私のことを何とも思っていないと知った時から。私は彼の、“ただの幼馴染”であり続ける。
「そういえば、次の同期会の幹事、葵もだったよな。」
大手会社ということもあって、本社にいる同期は20人程。一人で幹事をするのは大変だろうから、といつも2人でお店の予約などをしている。2か月に1回程、集まれる人で同期会をするのも恒例になるほど、私達の代は仲が良い。
「うん。そのつもりだったんだけど、鈴原に代わってもらったの。」
「あれ、何で?」
「今日、鈴原も領収書遅れたって言ったでしょ。そのお礼として同期会の幹事代わってもらったから、連絡は鈴原にしてね。」
「なるほどね、葵は楽できるってことか。」
「私は幹事に向いてないし、ちょうど良かった。新しいお菓子ももらえたし、今回は許してあげるの。」
先程鈴原からもらった新作は、来週以降の休憩時間に食べようと職場の引き出しに仕舞ってきた。
パソコンで数字ばかり扱っていると糖分を補給したくなるから、いつも引き出しには何かしら甘いお菓子が入っている。
「あぁ、ホワイトチョコのか。それなら俺だってあげたのに。鈴原に先越されたな。」
はい、と手渡されたのは、鈴原からもらったものと同じだった。
営業部は新作ができると、その試作をもって卸店や量販店に売り込みに行くことも仕事の1つらしいから、いくつか持ち歩いているんだろう。
それを営業先以外に渡して良いものなのかは分からないけれど。
お互い食事量は多くなく、どちらかというとお酒を好むようになったから。
大学を卒業したての頃は苦いお酒をそこまで好きではなかったのに。これを、大人になった、と言うんだろうか。
「ったく、俺が葵を誘うために定時ギリギリで経理に顔出したことくらい、葵は分かってただろ。」
「ぜんぜん。女の子とデートのために急いで仕事を終わらせて、ギリギリで駆け込んできたのかと思ってたわよ。」
「あのな、俺が今彼女いないことくらい知ってるだろ。新手の嫌がらせか。」
「そうね、蒼のおかげで女の子たちからあることないこと噂立てられるのには、そろそろ疲れてきたから、ちょっと仕返しでもしてあげようかなとは思ってたけど。」
「やっぱり、わざとだったんだろ。…まあいいや、とりあえず、領収書ありがとな。」
「いいえ、今日はごちそうしてくれるみたいだから、それで許してあげる。」
「葵はザルだから、ほどほどにしてくれよ。」
蒼の前では可愛くないことだって知っている。可愛くいられたのなんて、もう何年も前の話だ。
おそらく、彼が私のことを何とも思っていないと知った時から。私は彼の、“ただの幼馴染”であり続ける。
「そういえば、次の同期会の幹事、葵もだったよな。」
大手会社ということもあって、本社にいる同期は20人程。一人で幹事をするのは大変だろうから、といつも2人でお店の予約などをしている。2か月に1回程、集まれる人で同期会をするのも恒例になるほど、私達の代は仲が良い。
「うん。そのつもりだったんだけど、鈴原に代わってもらったの。」
「あれ、何で?」
「今日、鈴原も領収書遅れたって言ったでしょ。そのお礼として同期会の幹事代わってもらったから、連絡は鈴原にしてね。」
「なるほどね、葵は楽できるってことか。」
「私は幹事に向いてないし、ちょうど良かった。新しいお菓子ももらえたし、今回は許してあげるの。」
先程鈴原からもらった新作は、来週以降の休憩時間に食べようと職場の引き出しに仕舞ってきた。
パソコンで数字ばかり扱っていると糖分を補給したくなるから、いつも引き出しには何かしら甘いお菓子が入っている。
「あぁ、ホワイトチョコのか。それなら俺だってあげたのに。鈴原に先越されたな。」
はい、と手渡されたのは、鈴原からもらったものと同じだった。
営業部は新作ができると、その試作をもって卸店や量販店に売り込みに行くことも仕事の1つらしいから、いくつか持ち歩いているんだろう。
それを営業先以外に渡して良いものなのかは分からないけれど。