壊せない距離
だが―――

「そこまで分かってるのに、見つからないのか。」

…違うんだ、俊。そこまで分かってるのに、見つけられないのは。

「俺が、葵を見つけたくないとも思ってるからだろうな。」

心のどこかで、もう幼馴染に戻れないことも分かっているから、その現実を突きつけられたくないんだろう。

「俺ってこんなに女々しい奴だったかって、自分でも呆れる。だからさ、見つからなくても仕方ないんだよ。」

そんなことを思ってしまうなら、もう彼女のことは諦めるべきなんだろう。

それも分かっているのに、諦められないのは―――

はぁ、とこぼしたため息にが得意げな顔で俺を見下ろしていた。

「だけどお前は、やっぱり水瀬を忘れたくないんだろ。」

驚き、そして笑みがこぼれた。


「…本当にお前は、やっかいな相手だよ。」

忘れたくない自分に気づく奴なんて、俊くらいだ。




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