壊せない距離
幼馴染という終わり
「水瀬さん、これお願いしても良い?」

語尾があがった話し方、大阪弁独特のイントネーション。
来た時よりは大分慣れてきたとは思うけれど、やっぱりいまだに聞きなれない。

「大丈夫です。各店舗の実績をまとめたら、グラフ化しておきますね。会議用にレジュメも作っていた方が良いですか。」

助かる、と言われて手渡された資料を受け取り、今やっていた給与処理を先に終わらせる。

2年半と少し前、ヘネアールに採用された私は、満坂百貨店の経理部に配属された。

経験があることと、簿記などの資格を持っていることが有利になったらしい。

と言っても転職したての頃はまだまだ若手だったから、そんなに戦力ではなかったけれど。

今は経理経験としては6年目となり、任される業務も重要なものが増えてきた。

年度ごとに作成して公表しなければいけない、財務諸表の作成にも関わらせてもらえるようになったのも、今年度に入ってから。

各四半期決算をまとめて、6月に行われる株式総会のために財務諸表を作成し、公認会計士に監査を依頼する。そして指摘される部分があれば修正を加えていく。

ムトウにいた頃はまだそこまで任される程ではなかったけれど、経理の仕事も大分身についてきた。

今は四半期決算が終わり、12月。今度は1年の締めくくりである年末調整の処理に追われる。

ムトウと比べると満坂自体には社員は多くなく、書類の確認も数人で分担出来る程。
とはいえ、給与処理などの月次業務も重なると、やはりこの時期はどの会社でも経理が忙しくなる。



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