壊せない距離
「でもそれってさあ、やっぱり葵のこと好きなんだと思うよ。」

蒼と飲みにいった翌日、同期であり親友の七瀬凛と買い物に出かけていた。

大学から同じ学部、同じサークルで、常に一緒にいた存在。

私が蒼を好きなことも、知り合ってすぐのころから知っている。
凛から合コンの誘いを受けて快諾した後、昨日の蒼との会話を凛に話した。
それに対して凛の返答が、それだ。あり得ないと言っているのに、凛は昔からずっと言い続けている。

「それはない。何回同じやり取りしてるの、私達。」

凛に相談したことが間違いだった、と落胆する私に、凛は続けた。

「だって、普通好きでもない異性の恋愛関係なんて、どうでも良くない?私だったら、良かったね、って喜んであげる。それなのに、喜ぶどころか邪魔するって、葵を好きだからとしか思えないんだって。」
「幼馴染で、妹みたいに思ってたからでしょ。私の方が誕生日先だけど。」
「だから、告白しちゃえばいいんだよ。そうしたら、好きかどうか分かるでしょ。」
「それも、できないって何回も言ってる。」
「ま、確かに幼馴染だからそばにいられたなら、告白してその関係が壊れるかもって思うと怖いよね、分かる。分かるけど…」

テイクアウトで購入したタピオカをすすりながら、言葉を噤んだ。

結ばれない想いをしている私に、言えることはもうなかったんだろう。

けれど、もう15年近く想い続けてきた恋だ。今更簡単に止められるなら、とっくにやめていた。
それが出来ないから、幼馴染という枠組みに収まっているんだ。

「でもまあ、葵がそう言うなら仕方ないよね。次の合コンで良い相手見つけよう。」
「うん、ありがと。」

買い物終わりの夕方の外は少し肌寒くて、テイクアウトしたアイスコーヒーを飲みほした。

有名コーヒーショップの、季節限定タンブラー。桜の時期にしか買わないから、冬でも桜のタンブラーを使うのはおかしいと思われても仕方ない。

「ほんと、桜が好きだよね。名前は葵なのに。」
「名前の由来の葵は、一応フタバアオイらしいから春なんだけどね。さすがにそれをモチーフにしたグッズってなかなか売っていないから。」
「春生まれだから桜が好き、てね。ほんとにそれだけかしら。」

嫌な笑みを浮かべている凛を無視して、タンブラーをバッグに仕舞いこむ。


冬の匂いが鼻をくすぐり、もうアイスコーヒーも飲めなくなる季節が来ることを感じた。




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