ねえ、知ってる?【下】

「ねえ、聞いてよ」




「あの小さい方の子が輪っかくぐっていくとこ可愛かったな」


「う、うん、すごい泳ぐの上手だったね・・・!」


「は? イルカだから泳ぐのはみんな得意じゃん。苗、どうした?」


「・・・・・・」


 わかっているくせに、わざとそんな風に意地悪なことを言う。


 最後のショーが終わってしまい、ステージが閉まってしまうので私たちはステージの近くのベンチに座っていた。


 もう水族館の中は全て楽しんだし、もう他に回るところはお土産コーナーくらいだ。


 あと三十分で営業が終了する。


 早く気持ちを伝えなければならない。


 そう思えば思うほど、声が出なくなった。


 喉までその言葉が出かかっているのに、口を開こうとすると喉がきゅっと締まってしまうような感覚。


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