ねえ、知ってる?【下】



「あれ、桐谷くんじゃん!! 久しぶりだね」


「・・・・・・・・・菜都美ちゃん?」


「なっちゃん、桐谷くんと仲良しだったんだね! いや~こんなとこ見られるの恥ずかしいな。デート中だよ!! はは」


 俺はその場から逃げた。


 逃げたという言葉が一番正しい。


 うつむいて何も話そうとしない菜都美ちゃんと、その横でニコニコ嬉しそうに話している男に無性に腹が立った。


 いや、あいつは多分何も知らないのだろう。


 でも、菜都美ちゃんのことを「なっちゃん」と呼び、自分より遙かに背も高く、大人で、落ち着いているあいつが嫌だった。


 俺は走ってその場を離れた。


 何も考えられない。


 何が起こっていたのか理解出来なかった。



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