ねえ、知ってる?【下】
「俺にはそう見えたから声かけただけだけど、違ったならごめんね。でも、ここのご飯おいしいから食べてみて。そこからはもう俺も干渉しないから。ね? もう料理頼んじゃったし」
「・・・・・・・・・わかりました。でも私、お金ないです。貯金もないので、何も返せないです」
美舟が想像を超えた状況にいることは理解出来た。
ゆっくり状況を聞き出すと、最初は渋っていた美舟だけど、色々教えてくれた。
家を出た後はもうどうなっても良いと思っていたらしい。
ただずっと親の決めたことに縛り付けられていたのが嫌で、逃げ出したかったと、そう言っていた。
周りが恋愛をしている横で、自分はひたすら経営のことや興味のない習い事をさせられていたらしい。
親の決めた許嫁がいたので、恋愛は御法度だったらしい。
美舟は普通の家庭に生まれたかった訳ではない、ただ自分の意見を通せない、自分の意見を述べることさえ許されないような状況にあったのが耐えられなかった。
家庭の事情に俺が踏み込める訳がない。
それでも、一人で何も持たずに遠く離れたこんな土地まで逃げてきた美舟を放ってはおけないと思った。
ダメだなあ、俺。
自分を犠牲にしてまで誰かに優しくしてあげる必要はない。
そんなことはわかっているけど、そうせずにはいられない。
その日、俺は美舟を家に泊めた。
綺麗な子だなとは思っていたけど、別にタイプではないし、遊ぶ相手に困っていた訳ではない。
帰る家がないと言うので、可哀想だなあと思っただけだ。
別にその気はなかったけど、『他に恩返しの仕方がわからない』と誘われたので抱いた。
そんなことが目的で優しくした訳じゃないけど、断る理由がなかったし楽しそうだったからそうした。