ねえ、知ってる?【下】
そのあと雅暉さんが上がるまでの間、私は雅暉さんと二人での会話を交わすことはなかった。
いつもは少しでも長く話していたいと思うけど、今日も思ったけど、どう話しかけたら良いのか、何を話せば良いのかもわからなかった。
「お先に~!」
「お疲れ様っす」
「お疲れ様です・・・!」
「苗ちゃん・・・!」
帰り際、そう雅暉さんに呼び止められたけど、呼びかけに答えると『あと頼むね』とだけ告げて帰って行ってしまった。
期待してしまった自分が恥ずかしくなった。
何か言われるのだと思った。
そらそうだ。
私は今、ただの如月の従業員の一人に過ぎない。
仕事以外の話をする必要はないのだ。
もう好きでいてはいけないと言われたのだから、それは当然なのかもしれない。