ねえ、知ってる?【下】



「はい・・・」


「なんすか?」


 お店を出てから美舟さんは一度もこちらを見なかった。


 雅暉さんのことも、私たちのことを振り返ることはせず、ずっと前だけを見つめていた。


 カバンを持っている手に力がないのがわかる。


「雅暉くんを、よろしくね」


 そう言って振り返った美舟さんの目には大粒の涙が溢れていた。


 空さんも私も、言葉を失ってしまった。


 何が起こったのかはわからないけど、美舟さんがつらい思いをしているのは事実なんだろう。


 すぐに前から黒い高そうな車が来て、美舟さんが乗って行ってしまった。


 本当にお嬢様だったんだ・・・。


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