【短】アステリズムの夜
「最低」
「おい、待てよ凛」
汗とほこりの匂いが充満するバスケ部の部室。
怒りに震える声で吐き捨てる私に、彼は焦ったように声を上げる。
彼のその焦りは、自分のやったことを後悔しているから芽生えたものでは多分ない。この後に続く私からの罵倒、そして噂が広まり周囲から白い目で見られることになるという展開を恐れたが故の焦りだろう。
「あのね凛、これは違うのっ……」
そんな彼の隣に座る女も、可愛らしく瞳を潤ませながら同じように訴えかけてきた。
しかし私は、それをあっさり切り捨てる。
「何が?私全部見てたから」
──男子バスケットボール部のマネージャーを務める私が、インクが切れたボールペンを変えるためこの場所に戻ったのはつい先ほどのこと。
扉を開けようと手を掛けたちょうどそのタイミングで、部屋の中から男女の話し声が聞こえてきた。
嫌な予感がしてそっと戸を開けると、私と同じくマネージャーの女子生徒と、この部のエースである男子生徒がキスをしていた。
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