【短】アステリズムの夜
別にこの部で恋愛が禁止されているわけではない。見て見ぬフリをして引き返せば良いだけの場面だ。
……この二人が私の彼氏と親友でなければ、の話だが。
私が部屋に入ってきたことに気がついていない二人は、何度も繰り返し唇を重ねており、とても「事故だ」「勘違いだ」などと誤魔化せるレベルのものではなかった。
言い訳は出来ないと悟ったらしい彼氏──いや、もう“元”彼氏と言う方が適切か──は、大きくため息をついた。
「……そもそも凛が悪いんだろ。お前、手を繋ぐ以上のこと何もさせてくんねえじゃん」
「っ……!」
私は声を詰まらせる。
そして手に持っていたインクのないボールペンを元彼氏に向かって力いっぱい投げつけた。
「うわ、何すんだよ」
「最っ低」
もう一度そう言って、自分のカバンをひったくるように取ると部屋を出た。