ぜんぜん足りない二人
「あれ、真山優子さん?」

 そうしてやって来た翌朝、下駄箱で最初に出会った男は、聞いていた通り死ぬほどイケメンだった。

 目尻が垂れた瞳は天然モノっぽい茶色で、髪もそれに合わせて染めているらしい。結構明るい色をしているのに顔が浮いて見えないのは、彼の外見が西洋人っぽいからだろう。背も当然優子より高い。目視で180cm以上はある。

「ええっと、はい。真山優子です。遠野雪矢くん……ですよね?」

 優子は思った。

(コイツに嫌われたらマジで終わる!)

 既に容姿だけで性格がクソでも許されるレベルの点数を稼いでいるのに、クラスメイト曰く中身も良いらしいじゃないか、彼は。これで嫌われでもしたら優子の学生生活はこの十六年間で最も悲惨なことになるだろう。

 内心ヒエッヒエの優子を見ながら、遠野は花が咲いたような笑顔を浮かべた。


「わぁ、久しぶり!」
「えっ」

「覚えてる? ってか、分かるかな。俺、小五の時に転校した橋本雪矢。まぁ今は名字も見た目も全然違うけど……」
「ハシモト」

 カタコトになった優子を、遠野が遠慮がちに覗き込む。
 自分より背の低い優子を覗き込もうとするから、やたら分厚く見える前髪。恐ろしく綺麗な西洋人らしい顔、潤んだ茶色の瞳──

 優子の脳裏でとある少年の顔と重なった。


『う、うん! ぼく、もっと強くなって、いじめられないように頑張るよ!』


 息を飲む。

「は、橋本雪矢。私が助けるついでに説教した、あの橋本雪矢!?」
「うん、そうだよ! 嬉しいなぁ、優子さん覚えててくれたんだ!」

 にぱーっと笑う遠野を見ながら、優子は崖という名の理想から崩れ落ちる感覚を味わった。
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