医者嫌いの彼女
「…まぁ、まだ下っ端だからな。
色々やる事はあるけど…何で?」

亜妃「い…いえ、その…顔が、お疲れの様に
見えたので。」

…堅苦しい口調だな。緊張してるのもあるが…
多分バイトのせいもあるんだろう。

「フッ、心配してくれてる?」

亜妃「えっ…?あ、まぁ…」

「ありがとう。でもこれくらいなんてことない。
医者なんてみんなこんなもんだ。特に若手はな…
研修医の頃なんて寝る暇もなかったしな。」

それを聞いて納得したような表情の後、
何か考えている様子の亜妃。

亜妃「あ、あの…瀧さん」

まだ瀧さんなんだ…?
これはきちんと修正させる必要がある。

「…やり直し」

亜妃「えっ…⁉︎」

「名前で呼べって言ったろ?それに敬語も禁止。
…俺たち付き合ってんじゃないの?」

彼氏を苗字で呼ぶってなんだよ。

亜妃「そうですけど…もうずっと苗字で
呼んでたんで名前で呼ぶのが違和感で…」

「彼氏を苗字で呼ぶ方が違和感だろ」

俺がそう言うと、ぎこちないが名前で呼んできた。

亜妃「あっ…えっと…
か、和弥さんはどうして医者に…⁇」

うん…悪くない。

「あぁ…俺弟いたんだけど、小学生の時に
亡くしてるんだ。喘息で。
…まぁ、それきっかけだな。」


4歳年下の弟。
こいつも病院が嫌いでよく発作を隠していた。

俺は気づいていた。
具合が悪い事も、発作を隠していることも。

「大丈夫だから、母さんには言わないで」
「ちゃんと薬飲んでるし」
「きつくなったら自分で病院行く」

そんな弟の言葉を真に受けて…
親に言うことはしなかった。

ある日、夜中に重度の発作を起こした弟は
病院に運ばれたが、呼吸困難に陥り…
間もなく亡くなった。
青白い顔、紫色の唇、浅く、短い呼吸。

今でも鮮明に思い出す死ぬ間際の顔。
今思い出しても、残るのは何も出来なかった
絶望と後悔だけ。

…俺があの時ちゃんと言っていれば。
無理矢理にでも病院に行かせていれば。

どんなに悔やんでも今さらなんだが…
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