医者嫌いの彼女
ここに来る前に、春川医師について調べてはいた。

不倫の確証的な話は聞けなかったが、
噂は数多くあったようだ。

その中でも1つ、最も怪しい話が。
以前春川医師の秘書についていた女が
突然退職したと。しばらくして突然その女が
春川医師を訪ねて来た。
その女が来た日から1週間程休んでおり、
何かあったのでは…と噂されていたらしい。

半分賭けのような気持ちだっが、どうやら
ビンゴらしい。
京介と目が合い、頷く。

それでも、関係ないと言う春川医師に対し、
京介が口を開く。

京介「では、怒鳴っていた件について、
脅迫として警察に相談させて頂きます。
彼女は発作を起こしていますので、
出る所に出て話しましょう。」

春川「君はあいつとどんな関係があって
そんなことを言うのだ?」

警察へ行くと言った京介に対して、少し
語尾を強めて春川医師がいう。
京介と亜妃は正直雇った側と雇われた側
くらいの関係しかない。

「いえ、警察へは亜妃本人が行きます。
こいつは証言者として言ったまででです。」

俺がそう言うと、安心したのか鼻で笑って
勝ち誇ったかのような口調で言われる。

春川「フッ…あいつにそんなことは出来んよ」

ただ、その言葉で俺はさらなる確信をもつ。

「…そのように言い切れるという事は、やはり
全くの無関係でないという判断で良いですか?
失礼ながら調べさせて頂きました。
当時医学部長だったあなたの秘書の方との
子ども…ですよね?」

そこまで言うとさすがに観念したのか、口を開いた。

春川「そうだ…私はあいつの父親だよ」

やはり…

「ちなみに…彼女の喘息は昔からですか?」

聞いておきたかった。知っていて病院に行かせなかったのなら
同じ医者として許せない。

春川「…しらない。生物学上は父親だが、
あいつの事に関して俺が言える事は何もない。」

この、生物学上という言い方がどうも気に入らない。
そしてこの有無を言わせない物言い…
亜妃の事についてもこれ以上は何も聞けそうだな。

「そうですか。お時間取らせてしまい、
申し訳ありません。」

そう言い立ち上がると、声をかけられる。

春川「ちなみに、君は本当にあいつの主治医なのか?」

「はい。でも、亜妃は自分の彼女でもあります。
同棲もしています。」

「…そうか」

一瞬はっとした後、渋い顔をして何か
言いたそうだったが、聞きたい事は聞けた。
これ以上何も聞けないならこちらも聞く必要は
ないと判断し、退室する。
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