二人
「え…え?愛…?」
何秒かそのままの状態でいて、その後俺の勘違いかもしれないけど、愛は名残惜しそうに俺から離れ、寂しそうな笑みを見せた。
―左目から一筋の涙を光らせながら―
そのまま愛は俺から離れていった。
が、俺はその笑みと涙にグサリと刺さるものがあって動けなかった。
チクチクじゃない。
グサリだ。
俺はそれで初めて愛が怒っているのではなく、悲しんでいるのだと悟った。
それを現したのは、美波のせいだが、それをもともと誘っていたのは、明らかに俺だ。
しばらくの間、全くその場から動けず、我に帰ったのは、犬に噛み付かれてからだった。
いつもだったら蹴飛ばすが、今日はそんなことも気にならなかった。
彼女の美波より愛のことを考えていると気付いたのは、そのずっと後のこと。