月姫の祈り
「俺さ、いつも行商から帰る度に窓から桜に会いに行ってただろ?
あれは、1番にお前の顔が見たかったからなんだ。扉から行くと、まず先に桜の母ちゃんが出て来ちゃうじゃん?だから……」
いつも月が窓から会いに来る理由ーー。
やっと、分かった。
「いつも、帰りたかった。桜のいる里が、愛おしかった。
お前の笑顔が照らしてくれる、明るい里。
お前が、俺の里なんだ。桜」
私の名前を呼びながら、月は私の左手薬指にそっと自分の唇を落として、照れ臭そうに微笑った。
なんて、無欲な願いと想いーー。
この人は、”私”でいいんだ。
満月の能力を持っていなくても、いいんだ。
引っ込み思案で、ドジで、泣き虫な……。
そんな私を、愛してくれるんだ。
私は気付いていた。
里のみんなが、本当は私を恐れていた事。
みんなとは違う能力を持った私を、いつしか奇妙な目で見ていた事。