月姫の祈り
「私から逃げられると思ったか。馬鹿が」
その声の主に目を向けると、そこに立って居たのはたくさんの兵士を引き連れた醜い強欲の塊ーー。
そいつは見た事ない、先が筒のようになっていて、先端からうっすら煙が出た武器を脇にいた兵士に渡すと……。ニヤリと笑って、懐から小袋を取り出した。
チャリッと言う音。中身はおそらく金貨。
「良くやった。これは褒美だ」
「ははっ、有難き幸せにございます!」
そう言って、金貨の入った小袋を受け取ったのは……宿屋の、主人。
目を見開いたまま見つめる私に、ニヤッと笑って、主人は言った。
「悪いね、こっちも生活がかかってんだ」
ご機嫌に小袋をチャリチャリと鳴らしながら笑うその表情は、王様と一緒の強欲の塊ーー。
『ここを出る前にさ、ご主人に何かお礼しようぜ!俺達の恩人、だもんな!』
月は今朝、そう言って微笑った。
そう言って、微笑ってたのよ……?
ーーなのに、なぜ?
なぜ、こんなに汚い奴等が笑ってて……。
誰よりも綺麗な彼が、今微笑っていないの?