月姫の祈り
桜の「行ってらっしゃい」と「おかえりなさい」は、俺にとっては特別。最高の、贅沢だったんだ。
「俺は無欲なんかじゃない。誰よりも強い想いは、いつも俺の中にあったんだ」
ずっと、桜が欲しかった。
何度も何度も、無邪気に隣で笑うあいつを、同じ部屋で眠るあいつを奪ってやりたかったか……。
「……俺は綺麗なんかじゃない。むしろ、汚いよ」
俺の傍で安心している桜に、ずっと幼馴染のフリをしてた。
気持ちを告げたら、俺の欲望を全て出したら嫌われるんじゃないか?って恐れて、本性を隠して、あいつの傍に居たんだから……。
(ーーいいえ。
貴方は、やっぱり美しいですよ)
謎の声が、少し微笑ったように聴こえた。
(もしかしたら貴方なら、運命の神すらも惹きつけて従えてしまうかも知れませんね。
……分かりました、もう止めません。
行きなさい、貴方が自分自身で幸せだと思う来世へーー)
その言葉を聴いて、俺は返事の代わりに微笑うと、来世への扉を潜った。
……
…………。
ーーさぁ、今度こそ想いを伝えに行こう。
約束を叶えに行こう。
何度引き離されても、お前の元へひとっ飛び出来る翼があったらいいのにな。
『お前の夢は、俺が絶対叶えてやる』
例え全てを忘れてしまっても、この約束が翼になって、もう一度、愛おしい君に出逢えますように……。
【終わり】