月姫の祈り
が、まだ今日はその時間帯ではない。
しかも、その使用人ならば鍵を持っているから窓からではなく扉から現れる筈だった。
恐る恐る視線を向けた先ーー。
木で出来た格子で遮られた透明な窓の外に立っているのは、この国の兵士だ。固そうな鎧を身に纏い、兜を被っている。
……でも、不思議だ。
その兵士を見たら、私は何故か瞳を逸らせない。
「……。
まさか、月?」
その名が口から出た瞬間、身体の震えは止まった。
嘘みたいに心が冷静になって、窓にゆっくり歩み寄る私の頭の中には懐かしい想い出がよみがえる。
里で一緒に暮らしていた、同じ歳の幼馴染の男の子。
何故かいつも扉からではなく、窓から私を迎えに来てくれた男の子ーー月。
ガチャッと窓を開けて柵のような木の格子を外すと、兵士は兜を脱ぎ捨てて、私に微笑った。金色の髪や青い瞳を持つこの国の兵士とは違う、私と同じ黒髪に黒い瞳。首を少し傾けて、目を細めて、意地悪そうに微笑う……。
変わらない笑顔が、そこにあった。
「っ……月ッ!」
生きていたんだーー!!
一瞬何もかもが吹き飛んで、私は窓から身を乗り出すと月の首に腕を回して抱き付いた。