エリート検事はウブな彼女に激しい独占愛を滾らせる
「……いつになったら、名前で呼んでくれるんだ?」
「えっ?」
間抜けな声を漏らした私に、津雲さんはもどかしそうに説明する。
「だから、名前。津雲さんと呼ばれるのも嫌いじゃないが、そのうち和香菜の姓だって津雲になるんだ。名前で呼ぶのに慣れておかないとややこしい」
「はぁ」
言いたいことはわかるけど……大事な話って、それだったんですか?
拍子抜けしすぎてぽかんとしていると、津雲さんの手がスッと私の頬に添えられた。
「……今、呼んで」
優しく頬を撫でられながら甘い声でうながされ、ドキッと鼓動が跳ねる。
こうなってしまった彼からはもう逃げられない。私は遠慮がちに彼の瞳を見つめ返し、初めて彼を名前で呼んだ。
「大雅、さん」
「……うん」
大雅さんはこの上なく嬉しそうな微笑みで、ゆっくりうなずく。
しかし、その後なにを言ってくれるわけでもなく、ただニコニコしている彼と見つめ合っている時間に耐えられず、私は必死で話題を探す。
「あの」
「なに?」
「チョコ……どうでした?」
さっきの食べ方で味が分かったのかどうかは謎だけど、いちおう感想を聞いておきたい。
料理が苦手なりに、何度も失敗を繰り返した末にできた、血と汗と涙の滲んだチョコだから。