エリート検事はウブな彼女に激しい独占愛を滾らせる
「いえ、今回小宮が強盗に入ったのは、極めて個人的な理由です。資料によると、『元暴力団員の自分には働き口がなく、交際相手の女性になにも買ってやれない状況が情けなくて』だそうです」
「……またそんなくだらん理由で」
津雲さんは冷めた口調で言い、資料をデスクの上にパサッと放った。あからさまに呆れた顔をしている。
それもそのはず。彼は、被疑者が犯行に至った動機で、男女関係が絡んでいるものを最も嫌悪しているのだ。しかし実際のところ、恋愛感情のもつれから犯罪を犯す者は後を絶たない。
「先週の金曜日にここへ来た被疑者……いえ、もう被告人ですけど。彼女も、恋敵の女性が憎くて犯行に至った、ということでしたね」
「ああ。その上、まったく関係のない恋愛話で取り調べを長引かせる迷惑な女だった」
その取り調べには、もちろん私も立ち会っていた。
女性は一方的に片思いをしていた男性が、別の女性を妊娠させ結婚しようとしていることが許せなかったらしい。その憎しみから、何の罪もない男性の婚約者を神社の石段から突き落とそうと、その体を押した。
しかしちょうどその瞬間、事前に女性から犯行をほのめかす電話を受けた男性が駆け付けた。
彼は婚約者をかばうように抱きしめ一緒に石段を落ち、婚約者に怪我はなかったが、男性自身が頭部に重傷を負ってしまった――。