エリート検事はウブな彼女に激しい独占愛を滾らせる
……やだ、なんでよ。むしろ、同じ女性である私の方こそ、彼氏の暴力に怯える彼女の身になって、寄り添わなきゃいけないのに……。
さっき胸にちくんと痛みを感じた部分が、徐々に赤く腫れあがって、ずきんずきんと痛みだす。
初めての経験だった。感情的な心に支配されて、自分の正義が揺らぐ、そんな感覚は。
「彼女、なにか隠しているな」
女性が去ってから、津雲さんが私に話しかける。返事をしなきゃと思うのに、胸から喉までが嫌な気持ちで圧迫されて、声が出せない。
「……浅見?」
優しく名前を呼ばれても、素直に返事ができない。ついさっきまで楽しい時間を過ごしていたのに、どうしてこんなふうになっちゃうの……?
私はこんな状態でデートを続けるのは無理だと判断し、ぽつりと彼に告げる。
「私……帰ります」
「どうしたんだ急に。あ、さっき後回しにしてしまった話ならちゃんと――」
「今は聞きたくありません! ごめんなさい、これで失礼します……」
呆然とする津雲さんをその場に残し、私は足早に彼の元を離れた。
デートを途中ですっぽかすなんて最低……。そうわかっていても、あれ以上彼のそばにはいられなかった。
自己嫌悪と、いまだに続くずきずきとした胸の痛み。それから、彼と過ごした楽しかった時間の記憶が交互に胸をかき乱していく。
明日出勤する時、どんな顔で会えばいいだろう……。
私は困り果てたまま、最寄りの駅で電車に乗った。座席は空いておらず、吊革につかまって流れる車窓の景色をぼうっと見つめていた。