エリート検事はウブな彼女に激しい独占愛を滾らせる
「あの……お先に失礼して大丈夫でしょうか?」
表情を窺いつつ尋ねたけれど、津雲さんは私の言葉を無視して独り言を話しだした。
「社会の秩序を乱す犯罪者を起訴する。裁判でその罪を完璧に立証し、相応の罰を受けさせる。それが検事たる俺の役割で、この国の正義を忠実に遂行していると自負していたのに……」
なんだか自信をなくしているようだ。香川検事正に厳しいことでも言われたのだろうか。
「津雲さんは、いつも正しいことをしておられます。私はそう思いますが――」
「だろう!?」
食い気味でそう言った津雲さんに、ちょっとたじろいだ。こんなに熱量のある彼は珍しい。
「なのに、香川検事正ときたら、あの女の言い分にも一理あるなどと……」
「あの女?」
「さっききみとの話にも出た、妊婦突き落とし事件の被告人だ。話の流れで彼女の話を検事正にもこぼしたんだが……」
津雲さん、相当気にしているんだな……。上司にまで話をするなんて。
私は目をぱちくりさせながら、黙って彼の話に耳を傾ける。
「検事正は俺の実力を評価する一方、被疑者・被告人の心理を理解しようとする努力が足りないとも考えているらしく……あの女の言うように、本気の恋愛もしたことがないようじゃ、検事として半人前だなどと言い出した。しかし、優秀な検事である条件のひとつに、恋愛経験なんてまったく関係ないと思わないか?」