【短】昨日の月は綺麗でしたが、今はそうでもないですね。
月が綺麗
ですね
────ガタガタッ。
オンボロなドアがめずらしく開かれた。
言葉を追いかけていた視線を、反射的に横にずらす。
「し、失礼します……!」
わ、ぴかぴかな色。
ふわふわな金髪。
わたし以外に人気のないここにはあまりそぐわない。
ぽかんとするわたしをよそに、金髪の彼は奥の本棚のほうへ進んでいく。
メガネのレンズを拭いてかけ直しても、やっぱりあの金色は消えない。
本当にめずらしい客人だ……。
なにやら古い本をなん冊か手にした彼は、テーブルのはしっこに座って読み始める。むむむっと眉間にしわが寄っていく。それでもたしかにゆっくりと黄ばんだ和紙をめくる。
わたしも自然と手元の小説に視線を戻した。
コの字に囲われたカウンターの中、座り心地のわるい木製の椅子に深く座って、硬い表紙を指の腹でなぞりながら本の匂いに酔いしれる。
ページをめくる感触と音。窓の外から響く野球部のかけ声。水に溶けたような淡いオレンジの薄明かりも、わたしをここの住人にしてくれる。
秋めいた温度がまたいい。
図書委員には自分から立候補した。
大好きな本を読めるなら、放課後の仕事も苦ではない。むしろ天国だ。
傷みを放置したひっつめ髪と黒縁メガネという古くさい見た目から
『まさに図書委員!』
『お似合いだね』
委員会決めのとき、お世辞なのか揶揄なのかわからない言葉をもらった。どちらにしろ似合ってるのはふつうに嬉しい。