【短】昨日の月は綺麗でしたが、今はそうでもないですね。
一拍、二拍、と置いてどちらともなく身を反らした。
その拍子に彼は椅子から転げ落ちてしまう。
「いったたた……」
「大丈夫ですか?」
「えっ、あ、はい!だいじょぶっす!」
勢いよく立ち上がれば、彼の膝が思いきり椅子にぶつかった。地味に痛い二次被害。引きつった顔が赤くなっていく。うん、そうだよね、痛いよね。
「えと……申し訳ないけど、ここ閉めなきゃいけないんです」
彼は窓を一瞥すると、空の色に「げっ」とおどろく。
「もしかしておれが起きるの待っててくれました!?」
「え?い、いや……」
「すんません!!」
頭を下げられて戸惑ってしまう。
いや、いやいやいや!
わたしも読みふけってたし!お互いさま!
「あ、謝らないでください!」
「迷惑かけましたよね。ほんとすんません。もう遅いですし家まで送りますよ!」
気持ちだけ受け取ろうとしても、ぐいぐい食い下がってくる。
なんて義理堅いの。
意外と真面目なんだ。
第一印象ってあてにならないものだな。
これはお言葉に甘えるしかない……かな。