【短】昨日の月は綺麗でしたが、今はそうでもないですね。
「今度の文化祭でやるのがロマンスのやつだから、ちょっと勉強しようかなって思って。でもダメだったー」
「劇でもするの?」
「ああちがうちがう。おれ、バンドやってんの」
バンド。
3文字をオウム返しすれば、健二くんはにこやかにうなずいてその3文字を繰り返した。
「軽音部の4人で組んだんだ。セブンチャイルドってゆーの」
「7人の子ども?4人なのに?」
「そうそう!おもろいっしょ?セブンチャイルド、略してナナコ!」
ナナコ。
略名が愛らしい。
女の子の名前みたい。
「ナナコで文化祭の野外ステージに出るんだ!そこで『なりそこないロマンチカ』ってのを演奏する……んだけど、ロマンチカって何だよわからん」
「ボーカル?」
「ううんドラム。でもさ歌の意味はちゃあんと理解したいから」
やっぱり真面目だなぁ。
きらきらして見えるのは、その金色だけじゃない。
好きなことに真っ直ぐでありたい気持ちは痛いくらいわかる。
「……よければ、読みやすい本、選ぼうか?」
ついそう提案していた。
共感力ってすごい。
あ、でも、ありがた迷惑じゃ……
「えっ!いいの!?」
……ない、みたいだね。よかった。
「うん、もちろん」
「わあまじ!?あざっす!!やった!」
ここまで喜んでくれるとは思わなかった。
健二くんがぴょんぴょん飛び跳ねると自転車が倒れそうになった。ふたりしてすぐ自転車を支える。
グリップを握る、小さい手と、大きい手。
触れそうで、触れない。
なんとなくお互いに顔を見合わせた。
ふっ、と笑い合う。
今日の夜道はちっとも怖くない。