あおの幽霊
第0容疑者 葵 奏
酷くうるさい蝉の声と、大きな青い空を見ると
「あぁ、帰ってきたんだな」
と実感する。
必要最低限の荷物だけを詰め込んだキャリーバッグを引きずり、僕は海沿いの道を歩いた。
空気が揺れ動いて見えるほど暑い中、向こうの方からこちらに手を振る人影が近づいてきた。
「おや、奏くんじゃない!学校は?」
「こんにちは、中平さん。
大学は今夏休みなんですよ」
小さい頃から可愛がってくれている、近所では肝っ玉母ちゃんとして有名な中平さん。
今日も裏のないカラッとした笑顔で、僕の背中をバンっと叩いた。
「いてっ」
「相変わらず細いねぇ。
東京では元気にやってるかい?」
「はい、お陰様で」
「そりゃ良かった!
何もない町だけどゆっくりしていきなよ!」
そう言って立ち去る中平さんに軽く会釈をして、実家への道を歩く。
海と山に囲まれたこの町は、今日ものどかな…予定だった。
君が現れるまでは。