あおの幽霊
海辺の道から住宅街に入った。

各住宅の敷地からはみ出た木々たちで、所々に出来る影が唯一太陽光から逃れる事の出来る場所。

なるべく影の中を通れるように、道の端っこを歩いていく。

住んでる時は気づかなかったが、時々吹く風が潮の香りを纏っている。

ひゅっと、頬を空気が掠めた。

誰かが、僕の横を通り過ぎたのだ。

しかし、この一本道で、前から来た人はいなかった。

ーシャランー

鈴の音よりも優しい、
どこか懐かしい音だけが響き渡った。

後ろを振り返ると、紺色の夏セーラー、僕の通っていた高校の制服を着た少女が立っていた。

色素の薄い、綺麗な肌にピンク色の頬。

茶色の髪に、アーモンド型の大きな瞳。

薄い唇をにっと細めて笑う、屈託のない笑顔。

当時と全く変わらない姿で、彼女はそこに立っていた。

どうして……

「…水元、さん?」

そう言って、手を伸ばした。

ー ミーンミーンミーン ー

騒々しい蝉の声が聞こえた瞬間、頭の中にかかっていたモヤのようなものが消え去った。

彼女は、消えていた。

何故か心臓がうるさく、冷や汗が身体を伝う。

幻覚…か?

暑さで頭がおかしくなったんだろうか。

ギラギラと肌を突き刺す太陽の光。

彼女がいた場所には、ゆらゆらとカゲロウが揺らめいていた。



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