ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
秘書、副業をする。

「先生、これ本日の予定になります。」

「あぁ、はいはい……え、なにこれ!」

「どうかしましたか?」

おそらく文句を言うだろうと予想はしていたが、案の定だ。

「ぜんっぜん、空いてる時間がないじゃないか!」

「申し訳ありません。
午後から感染症委員会が臨時で会議を開くことになりました。
院長先生にも出席していただきたいとのことでしたので、急遽、予定を入れました。」

私のせいじゃないもん。
文句なら、あの横柄な外科部長に言ってほしい。

「えー!
その後、製薬会社のアポが3件だよ⁉︎
ティータイムが取れないじゃないか〜。」

もうっ!我儘言わないで。
大病院の院長ともあろう人が。

「……今朝、奥様からお電話がありました。
数値、また上がったんですって?
そう仰ってました。
…おやつ、1週間抜きますよ。」

あ、ムンクの叫びみたいになってる。
でもね、院長秘書の私は、奥様に逆らえないの。

「エェェェェーーーーー………」

「先生、お時間です。
はい、さっさと外来に行く!」

しょんぼりした院長先生はちょっと可哀想だけど、私も健康には気をつけてほしい。
廣澤院長は糖尿病の持病があるにもかかわらず、甘い物が大好きなのだ。
父親の亡くなった今、廣澤院長先生のことは、実の父親のように思っているから…
だから、私は奥様とタッグを組むの!

「……ハァ…。行ってきますよー……。」

「あ、白衣忘れてますよ!
ピシッとする!」

「はーい……」

朝からテンション下げちゃったかな。
ま、ご機嫌とりに、ミニところてんを買ってきて冷蔵庫で冷やしてあるんだけど…。会議の終わる時間次第かな。




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