ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
缶コーヒーを買って、屋上に上がる。
昼休みも終わってるから、回遊庭園にいる人もまばらだ。
人気のない一角に行き、兄が話し出すのを待つ。

「……なぁ、昨日、どうだったんだ?」

昨日って、なんで知ってるんだ⁉︎

「HASEGAWAの御曹司だよ。
どうなったんだ?
お前、なんか聞いてるか?」

…なんだ。斎のことか。

「顔合せなら上手くいったよ。
斎…長谷川さんも、気さくないい人だったし。」

「お前、ついて行ったのか⁉︎ 」

「……いや、まぁ…。」

「それで落ち込んでたのか⁇ 」

ん? あー、さっきのため息と斎の関係性を言ってるのか。

「それは全く関係ない。
斎とは、その…俺も親しくなったから。
問題ない。」

「じゃあなんだ。
お前、その調子じゃ、医療事故起こすぞ?」

「それも問題ない。
医局の片付けしかしてないからな。」

「……自覚あるのかよ…。
……灯里ちゃんだろ?
そこまで落ち込むってことは。
御曹司じゃないなら、なんだよ?」

「……兄貴に関係ない。」

言えるわけないだろ。

「そうもいかないだろ。
灯里ちゃんがどれだけお前のことで傷付いてるか、お前全然わかってないじゃないか。」

「な、なんで⁉︎
灯里が何か言ったのか?
…あ…麗さんか⁉︎」

「もちろん、麗も心配してる。
麗が気付いたんだ。絶対、お前達の間に誤解があるはずだって。
…なぁ、お節介だと思うよ。
俺達が介入するのは、良いことじゃないかもしれない。
でもな、お前、このままじゃ全然前に進まないじゃないか。灯里ちゃんに寂しそうな顔させるな。
俺達にはお前も大事な弟だけど、灯里ちゃんもすっごく大事な妹なんだ。」

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